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大阪家庭裁判所 昭和40年(少ハ)1号 決定 1965年7月02日

少年 H・N(昭二〇・七・五生)

主文

本件申請を却下する。

理由

(本件申請の要旨)

別紙2のとおり

(当裁判所の判断)

少年が本件申請の要旨記載のとおり仮退院許可決定書抄本(写し)中の特別遵守事項、犯罪者予防更生法三四条二項一号、二号、四号の各遵守事項に違反したことは当裁判所における第一回審判調書(昭和四〇年三月五日付)中少年の陳述要旨記載部分、担当保護司酒木アイノの家庭裁判所調査官に対する陳述書(少年調査票中の昭和四〇年三月二日付調査報告書)、戻し収容申請書添附別紙1の保護観察の経過及び成績の推移と題する書面により明らかに認められる。

しかし、犯罪者予防更生法四三条一項により仮退院中の者を少年院に戻して収容するには単にその者が遵守すべき事項を遵守しなかつたことあるいは遵守しない虞れがあるというだけでは足りず、遵守事項に違反した、あるいは違反の虞れある具体的事実等よりみて、その違反あるいは違反の虞れが重大であり将来の要保護性からみても少年院に戻して収容する必要があるものでなければならない。

そこでその必要性について検討する。少年は昭和三九年八月二八日加古川学園(中等少年院)を仮退院後兄(H・M)の下でビル清掃を手伝つていたが同年一一月二九日大阪保護観察所長の許可なく無断で家出し、同年一二月二五日頃から昭和四〇年二月一五日頃までの間は暴力団○○組系○○会○○○組事務所に起居し、同組関係者と交際し、又酔余自宅の近所の家のガラス戸を足蹴りして破損したりしており、その遵守事項違反はかなり重大で、将来犯罪を犯す可能性も強かつたが、当時は少年の家も狭く、母親が固い人で小言が多かつたこと等より家出したことがうかがえ、試験観察にする際も少年の兄(H・K)が少年の当時の住居、組関係とは離れた枚方市の方にうどん屋を開業し少年を働かせる予定だと述べている(家庭裁判所調査官の昭和四〇年三月一日付調査報告書)。このような事情であつたので、少年の環境をかえて一定の仕事をさせれば、そして兄H・Kがうどん屋を開業した際にはそこで働くようにすれば、少年を少年院に戻す必要まではなかつた。そこで一応試験観察として奈良のむつみ会の農家に補導委託をしたところ、今日まで三ヵ月近く農家で真面目に働き、一方兄H・Kはうどん屋を開業して少年が手伝うことを期待しているので、少年の環境整備もできた状態にある。よつて現状ではいずれにしても少年を少年院に戻す必要はなくなつたものと認められる。

以上より考えて本件申請は理由がないので、犯罪者予防更生法四三条一項、少年院法一一条三項、少年審判規則五五条により、主文のとおり決定する。

(裁判官 上野至)

別紙1

年月日

保護観察の経過及び成績の推移

39.8.28

(兄)H・Mの出迎えを受け加古川学園仮退院

大阪保護観察所に出頭して指示を受け、担当者に浪速地区保護司酒木アイノを指名し、同保護観察所の保護観察下に入る。

指定帰住地 大阪市浪速区○○町○○○○○○住宅○○○(実母)H・B子の許に帰住

39.9.10頃

から(兄)H・M等の下でビル清掃夫(窓ガラスの掃除夫)として真面目に就労していた。

昭和39年9月 担当者往訪 1回 観察成績~普通

同  年10月 担当者往訪 1回 観察成績~普通

同  年11月 担当者往訪 1回 観察成績~普通→不良

担当者宅来訪1回

39.11.29

就労による小遣銭として毎月1万円貰つていたが、不足勝ちで、兄に前借を申し出てもなかなか聞き入れてくれず、小言を聞くばかりで、家に居るのが面白くなく、独力で生活しようと決意し、大阪保護観察所長の許可を受けることなく、(兄)H・A所有のズボン2点を持ち出し無断で家出

その後求職に努めることなく、友人から借金(合計8,000円)等をして、大阪市西成方面の○○旅館あるいは友人宅に止宿し、パチンコあるいは映画等遊興に耽溺し、遊惰、放縦なる生活をなしていた。

39.12.7

担当保護司より事故(家出)報告書受理~大阪保護観察所

39.12.10頃

大阪市西成区○○橋商店街を通行中以前(加古川学園入院前)加入していた暴力団○○○組の知人と出会い、その際「組に来い」と誘われ

39.12.25頃

から、大阪市浪速区○町○丁目○番地○○組系○○会○○○組の事務所に行き、同事務所に起居し、電話番等をなすようになる。

39.12.○○

午後9時頃、酔余酒勢にて、大阪市浪速区○○町○○○○△△住宅の1階から2階に上るところのガラス戸を足蹴りして破損する等の暴拳をなした。

40.1.4頃

「布団を借せ」といつて帰宅したが、兄に折檻され5,000円を貰つて家を出たまま帰宅せず。

40.1.13頃

主任官が(保護者)H・B子の質問調書作成

保護者は戻し収容を希望する。

40.1.14

主任官が(兄)H・Mについて調査

兄の意見……本人に組関係があるようでは希望は持てない。

大阪家庭裁判所に引致状請求~大阪保護観察所

同裁判所は引致状発付

大阪府浪速警察署長に引致嘱託~大阪保護観察所

40.2.13

同警察署より「本人の所在を確認することが出来ない」との旨電話聴取~〃

担当保護司より戻し収容申出に対する意見電話聴取~〃

意見……戻し収容申出相当

引致状有効期間満了(大阪家庭裁判所に当該引致状返還)

40.2.16

再度、大阪家庭裁判所に引致状請求~大阪保護観察所

同裁判所は引致状発付

大阪保護観察所より留置を予測される者についての報告書受理~当委員会

午前11時45分 大阪府浪速警察署に於て引致着手

午前12時20分 大阪保護観察所に引致

主任官が本人の質問調書作成

大阪保護観察所から戻し収容申出書受理~当委員会

午後2時35分 戻し収容申出事件について審理開始決定~当委員会第1部

留置すべき施設を大阪少年鑑別所に指定

午後2時50分 審理開始決定を告知し且つ留置する旨を告げる。

本人より請書を徴す。

午後3時40分 大阪少年鑑別所に身柄引渡す。

別紙2

申請の理由

本人は、昭和38年4月27日大阪家庭裁判所に於て恐喝未遂保護事件により中等少年院送致の決定を受け、加古川学園に在院中のところ、近畿地方更生保護委員会第1部の仮退院許可決定にもとづき、昭和39年8月28日同学園を仮退院し、指定帰住地大阪市浪速区○○町○○○○難波住宅○○○(実母)H・B子の許に帰住したものであり、爾来、大阪保護観察所の保護観察下にある者であるが、昭和40年2月16日付をもつて同保護観察所長から戻し収容の申出があつたので保護観察関係記録等を徴して検討するに、本人は仮退院するに際して、犯罪者予防更生法第34条第2項所定の遵守事項及び同法第31条第3項によつて定められた特別遵守事項(別添本人にかかる仮退院許可決定書抄本(写)記載の通り)について必ず遵守し、立派な社会人になる旨を誓約して居り、日常の行動については勿論のこと常に過去を反省し、更生に努めなければならないことを了知しているにもかかわらず

<1> 本人は(兄)H・M等の下でビル清掃夫として就労し、毎月小遣銭として1万円貰つていたが、不足勝ちで、兄に前借を申し出てもなかなか聞き入れられず、小言を聞くばかりで家に居るのが面白くなく、独力で生活しようと決意し、昭和39年11月29日、大阪保護観察所長の許可を受けることなく且つ、保護者等にも無断で家出し、その後同年12月24日頃までの間、求職に努めることなく、友人から借金(合計8,000円)をする等して、大阪市西成方面の○○旅館あるいは友人宅に止宿し、パチンコあるいは映画等遊興に耽溺し、放縦なる生活をなし

<2> 剰え、上記家出をする際、自宅から(兄)H・A所有のズボン2点を無断で持ち出し、

<3> 昭和39年12月25日頃から、昭和40年2月15日頃までの間、加古川学園入院前に加入していた暴力団○○組系○○会○○○組事務所(大阪市浪速区○町○丁目○番地)に起居し、同組関係者と交際し、

<4> 昭和39年12月○○日午後9時頃酔余酒勢にて、大阪市浪速区○○町○○○○△△住宅に於てガラス戸を足蹴りして破損する等の暴挙をなし

たものである

上記<1>の事実は犯罪者予防更生法第34条第2項第1号、第4号及び同法第31条第3項によって定められた特別遵守事項第3、第4、第5に、<2>及び<4>の事実は、同法第34条第2項第2号に<3>の事実は、同特別遵守事項第6に各違背しておりこれ等のことは保護観察関係記録等により明白である。

以上を総合すると、本人は知能水準低く、行動に対する自制力に欠ける為即行的なしかも短絡的な行動をなし、感覚的快樂を無節制に追求し、上記諸行為に出たものである。

又本人は自我の未熟のため非行の原因を周囲の責任に帰せしめようとして反省に乏しく、遊惰な生活態度、勤労意欲の欠缺、並びに実父なき欠損家庭で本人の指導、保護が困難な家庭環境、更に保護者等家族は本人の監護に自信を喪失しており、又他に本人を委託保護すべき適当な社会資源の早急な開拓も期待することは困難な状况である。

かかる現段階において保護観察を継続することは、本人の自助更生の意欲の程度あるいは暴力団との関係から推して非行を、続発する危険性は極めて高く、且つ地域住民の本人に対する感情も不良であり、極めて警戒的である。

ここに当委員会は審理を遂げ、本人を社会に適応する如く改善し、挫折感を克服し、勤労意欲を涵養せしめ、もつて更生を計るためには、本人を少年院に戻し収容し、矯正教育を施す必要があるものと認めた。

よつて本件戻し収容申出は相当であり、犯罪者予防更生法第43条第1項にもとづき、少年院に戻し収容すべき旨の決定を申請するものである。

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